並進運動
しっかりと立つことができたら、次は投球エネルギーを確保するために並進運動を行います。
並進運動とは、投げる方向に体を動かしていく動作のことです。
並進運動で得たエネルギーを上半身から腕に伝えることで、投球が実現します。
並進運動なしでも球を投げることはできますが、球速は遅くなります。
ノーステップで投げると球速が遅くなることは体感的に分かるでしょう。
だいたい、通常130km/h投げられる人なら、ノーステップだと115km/hくらいに落ちます。
なので、この場合15km/h分が並進運動から生み出されていることになります。
また、並進運動のスピードは、球速を左右する大きなポイントです。
ゆっくりと前に移動して投げるのと、すばやく前に移動して投げるのでは、すばやく移動して投げるほうが、生み出されるエネルギーが大きいからです。
すばやく移動して投げると、ゆっくり移動した場合に比べて約5km/h程度、球速が速くなります。
ただし、すばやい並進運動をすると、その分身体に大きな負荷がかかるので、それに耐えられる身体が必要になります。
身体ができていない小学生にメジャーリーガーのようなスピードで並進運動をさせても、身体がそれを生かせないということです。
静止状態から並進運動への移行
並進運動の具体的なやり方に入ります。
まず、完全に静止した状態から、前に移動するのですが、
なるべく脱力した状態をキープするために重力を活用します。
腰から上の上半身の位置がだんだん前に移動することによって、
片足立ち状態の軸足もそれにつられて前に倒れていきます。
そうやって並進運動のきっかけを作ります。
並進運動のイメージに注意。
現代の野球理論では、「並進運動」という概念はかなり定着しているようです。
まじめな選手ほど、これをよく勉強して、
投げる前に「並進運動をしないと・・」と並進運動をしっかりやろうと考えますが、
ここではまりやすい言葉の罠がありますので、気をつけてください。
それは何かというと、「並進運動」という言葉です。
この言葉からどんな「イメージ」を持ちますか?
「進む」という文字、「運動」という文字があり、
ほとんどの人は、「前に進む運動」というイメージを持つと思います。
しかし、一流選手の運動を見ると、それほど大きく前に移動しているわけではありません。
ティム・リンスカム選手のように大きく踏み出す選手はむしろ少数派です。
並進運動は、前に動けば動くほど球速が上がるということはないのです。
更に、最もはまってしまう人の場合、「前に前に」という意識が強すぎて、「頭部」を前に持っていこうとします。
頭部の移動距離が一番動きを感じられるため、前に動いた実感が得られやすいからです。
そのため、動画などで自分の動きを確認しない限り、それがいい動きだと誤解して覚えてしまうのです。
並進運動で生み出されるエネルギーは、主に腰から下の重さの移動によって得られるものです。
ですから、前脚は1m以上踏み出すものの、腰の位置は30~40cm程度しか動かないのです。
頭部もほとんど動かないイメージがむしろ近いといってよいでしょう。
投げるときのイメージとしては、
前足以外は、「え?こんなちょっとでいいの?」というくらいの動きで十分なのです。
軸足の跳ね上がりは、股関節回転のバロメーター
メジャーの多くの投手は、投球後に、軸足が前にむかって跳ね上がります。
これは、股関節の回転によるものだと思われます。
一方、日本の投手の多くは、軸足が引きずられるように動くか、もしくは外側に出て行って相撲取りの四股のように着地します。
相撲は日本の国技だが・・
このように、軸足の動きは投球フォームで股関節の回転や下半身が上手に使えているかのバロメーターになります。